第12章 蠍の火
あの夜から数日経っても、彼女を見かけることは無かった。時間がある時に探しても、その姿はどこにもない。
『(ただの危ない奴になりかけてる…もうやめよう)』
来客用の証明書を首から下げていたのだ。もうロドスのどこにもいない。きっと夢だった。傷が原因の発熱で頭がどうかしていて幻覚を見ていたんだ。と思うことにした矢先のこと。
『え、は、ちょちょちょ、ちょっと待って!!』
仲間のメランサと共に廊下を歩いている時に、部屋から出て来たのは友人のアドナキエル…と、その手に捕まれているのは、ずっと探していた人。
『(あの子だ…!)』
目を見開いていたらブラウンの目と目が合った。だが、その目はすぐに逸らされた。まるで自分と会ったのはこれが初めてであるかのような気まずい目だった。
そんな彼女はアドナキエルによって連れて行かれてしまう。
『こ、コラ!アドナキエル!その子をどうするつもりだっ!』
思わず声を荒らげて止めようとした。らしくもない。
その様子を見たメランサが、慌てたように小さな声で呟いた。
『あの人…ドクターが最近引き取った子ってアドナキエルさんが言ってました。確か、環境の変化に弱くて、経過観察するから刺激しないようにって』
メランサが細くしてそう言う。その言葉を借りてアドナキエルを止めようとしても、あの天使はその歩みを止めなかった。
溜息を吐いて追おうとしたスチュワードだったが、すぐにその腕をメランサが掴んで止める。