第12章 蠍の火
『星は見えましたか?それとも見る前だった?』
『…デッキに行く道がわからなくって。途中で断念したところでした…』
肩を落とし、眉をハの字にするその姿はとても残念そうだった。対し二、三度瞬きをしたスチュワードは柔らかな笑みを浮かべる。
『!あった。これかな!?』
一度天高くそれを上げて確認のためにスチュワードに寄って来た彼女は、小さく丸い錠剤が多数入ったケースを預けた。
『…うん。これですね』
『後は水…水?』
辺りを見渡しても水が補給できるところも、水が入っていそうな冷蔵庫もない。
『あぁここに』
だがペットボトルの水を持参していたようだ。スチュワードは、ケースから錠剤を3つ出すと水と一緒に飲み干した。その様子を見て安心したように笑う彼女は手を差し出した。
『部屋まで送ります』
そう言われたスチュワードは、目を丸く開いてすぐにへにゃり、と笑った。どこまで人に優しくすれば気が済むのだ、と。
同時にふつふつと別の感情が沸いて来て、今や帰るという選択肢は頭になかった。
もう少し、彼女と話していたい。
『…折角ですから、星を見に行きませんか?』
『え、いやでもその体では…』
『迷惑かけますけど、デッキへの案内ならできます』
そう言ってソファーから立ち上がったスチュワードだったが、すぐに体がフラついて彼女に支えられる。
『だ、駄目ですよほら!もう部屋に戻りましょう!』
『…星が見たい』
『!』
『なんて僕のわがまま、聞いてくれますか?』
困った笑顔を浮かべるスチュワードに、彼女も折れたのか、フッと笑い、スチュワードの右腕を自身の肩にかけた。
『傷に響きますから、すぐ戻りましょうね』
『はい』
ニコリと笑ったその笑顔の裏、やった。と呟いた。