第12章 蠍の火
『!…っと危ないセーフ!!』
『!』
前から柔らかいクッションのようなものに受け止められた。それに驚いて目を開くと、黒色の髪が見えてハッとする。自分は誰かに受け止められたのだと。
『大丈夫ですか!?う、わ…酷い怪我…』
体を離した彼女はスチュワードの体の至る所に巻かれた包帯に顔を歪めた。
『僕は、大丈夫ですよ。ありがとう、ございます。その、お怪我は?』
『はい私は大丈夫で…って、いやいやいや…今はご自身の心配をしてください!こんな時間にどこへ?送っていきます』
『いや…大丈夫です。一人で、行けますから』
『行けませんッ!…おっと…』
深夜に似つかわしくない声量で言い放ったため、青紫色の目が大きく見開かれる。それを見た彼女も口に手をやり、反省したように目を逸らした。
『兎に角、一人では無理です。…どこへ行くんですか?お部屋?』
グイグイ、と押してくるその熱意に驚いて思わず口から目的地が漏れた。
『いや…医療部に…』
『医療部…が、どこにあるかは知らないんですけど、案内して下さい』
『でも、もう遅いし…貴方も部屋に戻る予定だったのでは?』
『私の事は良いんです!さぁ!』
『!』
右腕を掴んだ彼女は、自分の肩にかけるとスチュワードを見上げて少し口角を上げた。
『どこですか?その医療部ってやつは!』
『……はは…』
そのお人好しな性格に、思わず笑ってしまったスチュワードはゆっくり前を向き、下の踊り場を見つめた。
『そこの扉から、右に行ったところにあります。…すいません。肩、借りますね』
『どーぞどーぞ!』
一段、また一段と階段を下りていく。二つの靴音が吹き抜けの階段には良く響き、リズミカルな音が鼓膜を揺らした。