第12章 蠍の火
「さくら、おやすみなさい。良い夢を見てくださいね…」
「永遠に見ることになるわ!!」
防音の部屋の中から聞こえて来たそんな声を聞いて細く長い息を吐く。立てた大きな耳を少し下げたと同時にトンと地面を蹴った。
相手の陣地を占領したら言うことを聞くという賭けに乗った彼は、賭けに勝つために自分の首を差し出して彼女の首を刈り取った。そして今まさに、真面目な彼女は彼の言うことを聞き入れて共に睡眠に入るのだろう。
止めたはいいものの、どうしても譲れない、という目に気圧され、敢え無く身を引いた。
あれは本気の目。人を好きになった目。今まで共に過ごしてきたが、一度も見たことがない目だった。
「(…でも、先に欲しいって思ったのは僕の方なのにな)」
―――しかし、先に想っていたとしても偉いことは無いのだ。
そう自分に言い聞かせ、壁を背に凭れ掛かる際に、雪色の尻尾が寂しそうにゆらりと揺れた。