第11章 救われたのはどちらから
『こんにちはっ!』
訓練場に溜まった不満や倦怠感を吹き飛ばすかのような元気のいい挨拶が木霊した。
俯いていたアドナキエルが顔を上げると、そこに居たのは黒髪の、見慣れない女性だった。
その立ち振る舞いはオペレーターと言うにはあまりにふくよかで、苦痛も知らない笑顔をしていたのだ。
今その笑顔は、先程アドナキエルの陰口を言い合っていた男2人に向けられている。
『アドナキエル』
『?ドクター』
『すまないな…どうしても見たいって言うものだから連れてきてしまった』
『?彼女は?』
『ちょっとした事情で昨日ロドスで保護したばかりの非感染者だ。狙撃オペレーターに興味があるらしい』
アドナキエルは横に並んだドクターから視線を外し、もう一度彼女を視界に入れた。まだ笑っている。
その口からは挨拶以外の何を出すのだろう。声をかけてどうするのだ、と2人して見守っていた。
すると、彼女は突然その笑みのまま男の胸倉を掴んだのだ。
『うぐっ!?』
途端に、笑みは怒り顔に変わった。
『人の悪口言うクズってどこにでもいるんだね。そんなこと言ってて連隊を重んじる組織が回ると思ってるの』
『!』
アドナキエルは目を見開いた。バッと手を離して、尻餅をついてしまった男から視線を外し、もう一方の男から軽い手つきで銃を取り上げると、背の部分を右手で持って思いきり引いて見せた。
すると、そのまままるで手馴れているぞと言うように、どんどんと銃がバラバラになっていく。最後にグリップの所を捨てると、人差し指でトントンと相手の心臓部を突きながら言葉で攻めていく。
『弾詰まりしてしまうほど銃の整備もなってない奴が、教官となってくれている人の悪口なんて言うな!言うなら面と向かって言え!言ってみろよ!ほら!!できないんだろ!?だって教官は戦場に出れる人なんだからお前らとは全然実力が違うからなあ!』
全て正論だった。
ぱちくりと瞬きをするアドナキエルは、ゆっくりと、俯きながら素の笑みを戻し始めた。
その後、慌てた様子で右往左往しているドクターを一瞥する。