第11章 救われたのはどちらから
「え、何その行動?」
「…」
腕より少し顔を上げた彼は、珍しく笑っておらず、口はへの字に曲がっている。
「…救われたのは俺の方なんですからね…」
「へ?」
ガタンと椅子が音を立てるほど勢いよく立ち上がったアドナキエルの口はやはりへの字のままだ。
「…やっぱり撤回します。今日は一緒に寝ます」
「は!?何で撤回した!?ちょ、うあ!?ちょっと離し、アドナキエルッ!コラァァ!!」
グ、と両手で私の手を掴んでベッドに行くアドナキエルはもう止まる様子がない。
「う、わっ!?」
まるで雪崩れ込むように、私たちはシングルベッドに倒れた。…狭すぎてその際に脳天を壁にぶつけたのは大目に見てやろう。
枕元にあるスイッチを押すと部屋が暗くなるのだが、倒れると同時に暗くなったので流れるように押したのだろう。それに私を壁側にするあたり、暗闇にして覆いやって逃げれないようにしている。それも、躊躇も何もなくその腕で私の体をホールドしている。
また、スン、と香るのはやはり天使のあの匂い。頭がぼーっとして、とても安心する匂いだ。
…なんて奴だ。不服だが、逃げる気力が全て削がれてしまった
「…」
異性が隣で寝ている、なんて今までなかったために体がガッチガチに固まっている。溜息なんか吐いたりしてみれば、すぐ頭上からからかうような笑いが降ってくるのだ。
一通りその笑いが発せられた後、細く長い溜息の後、アドナキエルが言った。
「…さくらは最初に俺と会った時を覚えていますか?」
「え?あぁ、何か私の管理をするからって部屋に来た時だよね」
「あー…それは2回目ですね。覚えてないなら良いですよ」
「え、あ、ご、ごめん…忘れっぽくて」
「いいんです。…いいんですよ」
「ぎゅ!?ねぇ苦し、死んじゃう…息、できないん、だけど…!?」
「…」
天使は思いきり抱き締めると、嬉しそうに頭に顔を埋めて微笑んだ。