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【アクナイ】滑稽な慈悲

第11章 救われたのはどちらから



「もうないよ。…もう、戻ることはさほど重要じゃなくなったし」

「?それは、どういう意味ですか?」


その問いにすぐには恥ずかしくて答えられず、手元にあった駒を人差し指で突き遊ぶ。こてんと転がり、軽い音を立てた駒に笑い、その勢いで言うことにした。


「この世界は命が軽い衝撃で消し飛んでしまう。最初はそれが怖くて、のうのうと生きてる私を見るオペレーターたちの目が怖くて、平和な世界に戻りたくて、親しい友人に会いたくて、家族が恋しくて、どんなに良くされてもすぐに帰りたかった」

「ええ」

「でも、見つめ返したら…元の世界ではこんなに"生きている"っていう感覚は味わえなくて、こちらの世界の居心地がよく感じて来た」

「はい」

「それに…今でも戦争は怖いけど、私の力で終結させられるなら…誰かの役に立てるなら、帰るよりすることがあるはずだって気付いたから」

「…」


私の空笑いが響く。本音を話すのが恥ずかしくて、無意識に俯いて後頭部を掻いた。


「なんて言ってるけど、そう思うようになったのもアドナキエルのお陰だ」

「そんなことないですよ。俺は何も」

「謙遜しないでよ。…本当、君には助かってる。…ありがとう」


ゆっくりと頭を下げた。
こうして誰かに100パーセントの感謝を伝えるのも中々ないだろうな。そう思いながらゆっくり頭を上げると、アドナキエルは机に腕を乗せて突っ伏せていた。

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