第11章 救われたのはどちらから
『さて…最後は君だけだな』
『ええ。お待ちしていました』
彼はにこりと笑ってスチュワードが座っていた席についた。2人が持ち駒の性質を把握している最中、ポツリとアドナキエルが呟く。
『時に指揮官殿はとてもお優しい方だったとお見受けします』
アドナキエルは男を見ずに、ただ駒を把握する事に集中している。
『…それは何故だ?』
男がアドナキエルの顔を見た。―――アドナキエルはゆっくりと、顔を上げて笑う。
『ゲームでも戦場でも、命を重んじる方だったんだなって』
その一言でゲームが展開されて周囲の音が無くなる。それから数分。たった数分の事だった。
興味本位で見に来た観客は勿論、その場にいたスチュワードやカーディが絶句するほど早く、試合の勝敗がついてしまった。
『俺の勝ちですね!』
『…そんな、この私が?』
男は現役ではない。退役した指揮官を負かすのは至難の業。勝てると思っていた。それがただの青年に負けたのだ。
指揮官は一歩間違えば破滅する。1試合も負けれないと踏んでこのザマだ。
だが、目の前のサンクタはその種族に似つかわしい笑みを見せて、まるで手馴れているように戦場をリセットし始める。
『さぁ!もう1回ですよ!』
高らかに言ったアドナキエルは、指揮官の旗を完膚なきまでに叩き折ったのだ。
三戦三敗。圧倒的な敗北。
現役の指揮官ならば、退職も辞さない。それほどまでに酷い戦場だった。
―――――――――