第11章 救われたのはどちらから
「……ところで、これ、術師とか書かれてるけど…私の勘違いでなければ…これって元々実戦訓練用のじゃないの?それも、指揮官育成のための」
「さくらは賢いね。そうだよ。酒場で出会った兵士は引退した指揮官だった」
先鋒、前衛、重装、狙撃、術師、医療、補助、特殊で構成された32駒。それはオペレーターたちの職業に合致する。
このゲームを通して指揮官が育っていく…としたら、戦場に出て指示をする役を実際にしているドクターもプレイしたことがあるのだろう。
「普通はね、指揮官以外は持ってない限定のものなんだけど、引退した指揮官は"このゲームに1勝でもしたら譲ってやる"と言ったんだ」
「!でも、今カーディはボコボコにされたって…」
「うん。1人3回ずつ。僕とカーディは3連敗だったよ。そりゃあ相手は引退したとはいえ指揮官だったんだからそりゃあね…」
スチュワードは懐かしむようにルールと共に昔話をしてくれた。
―――――――――
その酒場は名の通り酒臭く、既に出来上がった兵士たちで席を埋めていた。
そんな中、ただその席の周りだけが静かで、先程から金属の駒がボードに擦れる音だけが響いている。
相手は髭を蓄えた指揮官だった。その威厳は駒を動かす振る舞いだけで読み取れる。
『A4、A3ブロック、前へ』
男は指揮官の名に恥じない指揮を見せて、兵士を動かしていく。そして、青紫の目を伏せさせるに至った。
『…降伏します』
3回の勝負で頭を下げたのはスチュワードだった。彼は戦略ゲームが得意であったが、これほどまでに頭を要するものは初めてで、惨敗したのも初めてだった。
『君らはオペレーターかね』
『…彼女は違いますが、僕らはそうなる予定です』
『ならば知っているといい。指揮官が一歩誤ると、兵士は無駄死にし、前線が崩壊する。そのためただ従って動くのではなく、戦場にいる間は自分も"仲間"を把握しておくことだ』
ふう、と息を吐いた男は、最後に残っているアドナキエルを見据えた。