第10章 療養中
「アドナキエル…お気に入りなのはわかったが、さくらが困っているから少し離れなさい…それに人目もつく」
その凛とした声で、ムッとした声を一瞬発したアドナキエルが一歩二歩と下がっていく。
見えたのは、病室に入ってくるドクター。それに続いてスチュワード、メランサ、ドーベルマンさんの4人だった。
「さくら、目を覚ましたんだね。良かった」
「心配、しました…」
2人はそう言いながら、しれっとアドナキエルの両側に立ち、暴れないように腕を抑え始めた。
行動予備隊A4プロテクトだ、と苦笑いしていると、ドクターが私の目の前まで来てすぐ傍の椅子を引き寄せて座った。
「兎に角、今回こちら側に損失が無くて良かった。さくらも帰って来た。上々だ」
「…ご迷惑おかけしました」
「いや、悪いのは君の力を利用しようと考えたレユニオンの方だ。謝る必要などこれっぽっちもない」
「…でも、私がアーツをコントロールできていれば、あの部屋が壊れてレユニオンが入ってくることもなかったし…」
「その点については罠だった」
「罠?」
小首を傾げると、ドクターは頷いた。
聞けば武器に練り込まれた源石の密度によって個人の源石術を操れる限界度を決められるらしく、私の力が暴走したのは非感染者が刃先に触れれば感染は避けられないと言われるほどの、ほぼ純源石で出来た剣を手にしたためらしい。
罠としてそれがトレーニングルームに置かれていた。それを使用してあぁなったと聞かされる。
とはいえ、自分がコントロールできれば回避できた話だ。私は再度頭を下げた。
「ごめんなさい」
「ふむ。お前の住んでいた世界では自己肯定力が低い者が集まっているのか?悪くないと言っているだろう。謝るな」
言ったのはドーベルマンさんだ。目を逸らした私に、ドクターは何度も頷きながら言う。
「まぁ今回の件はさくらの事が良く知れたことで結果良しとする。…そして、これを話す決心もついたということだ」
「何、ですか?」
ドクターは一度咳払いをすると、顔を上げた。
膝に置かれている手を見ると、グッと拳を作っていて、必然的に大事なことだと察して自然と背筋が伸びる。