第10章 療養中
「アンセル…」
アンセルは私から視線を外すや否や、眉間に皺を寄せて手元のボードを見ながらピ、ピ、と音を立てる機械を見つめている。
「全く…アドナキエルさんも、さくらさんも無茶し過ぎです。特にさくらさん。自らを犠牲にすることが周りにどれだけ心配かけるかわかっていますか、わかっていないでしょうね!?」
ボールペンを振りながら私に怒る彼は、怒っていても可愛らしい顔をしている…と言うとデコピンでは済まないだろう。
「こ、こここ怖いよアンセル…」
「本当に…心配しました」
「!…ごめん、なさい」
ともあれ、心配かけたことは事実だ。素直に謝ると、アンセルはこちらを一瞥しては溜息を吐いてボールペンを胸ポケットに直し、その手を私の頭に置いた。
「無事でよかったです」
「!…」
「今ドクターを呼んできま「アンセルっ!さくらは起きましたかー?」ッチ…アドナキエルさん!静かにしてください!」
あの可愛いアンセルが舌打ちしたことよりも、ドアを壊すんじゃないかと思うほどの勢いで登場したアドナキエルに驚く。
そして、今金色の目と目が合っている。
「!さくら、目が覚めたんですね。良かったです!」
「いや、ねぇ、あの、凄い勢いで近付いて来な、えぁあああああああ!!!?」
「アドナキエルさん!!」
まさかまだ点滴の針を腕に通している病人に突っ込んでくるとは思わず、そのまま受け止めると、檻の中で抱き締められた時と同様の天使の良い匂いがした。
ということを考えられるほど頭は冷静ではないわけだが。
「ちょ、いいいい嫌だ恥ずかしい何ちょっと離してっ…この、イケメンコラアアアア!!」
「そんな露骨に嫌がらないで下さいよ、一緒に生き埋めになりそうになった俺たちの仲でしょう?」
「どんな仲だよ!?嫌だわ!!」
「顔真っ赤ですよ、可愛いですね」
「アンセルルルルルルル!!!」
彼に助けを求めたが、既にアドナキエルの服を後ろから引っ張っていたようだ。
だが、一歩も引かないし動きもしないこの力の強い細マッチョをどうにかしてほしい。