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【アクナイ】滑稽な慈悲

第9章 酷い夢



「各隊員は待機せよ。アドナキエル。チャンスは一度だけだ。さくらを呼び戻せ」

「!ドク「了解」アドナキエルさん…!」


アーミヤが止めようとするが、逆にドーベルマンがアーミヤを止め、首を横に振った。


「あいつが自ら志願することは初めてだ。…あいつならできる」

「……はい」


アーミヤは納得して、檻の中に入っていくアドナキエルを見据えた。心配そうな眼差しの中、アドナキエルはさくらと1メートルほど離れたところで止まった。


「さくら。迎えに来ました」

「近付かないで…!!」


ゴウ、と炎が檻の周りを覆った。これでもうアドナキエルに何があっても隊員は助けに行けない。焦る隊員たちの中で、ドクターは真っ直ぐに、動揺もしない彼の背中を見ていた。


「さくら…痛かったですよね、苦しかったんですよね」

「来ないで…ッ…来るなよ…!!」

「すぐに来られなくてすみませんでした。…俺と一緒に帰りましょう」

「ッ帰れるところなんてない!!私を…私を家に帰してっ…!!」


パリ、と生み出された電流が氷の床を駆けていく。アドナキエルは、それにも動じず、さくらの目をじっと見て、その本音を受け止める。

繕った笑顔は剥がせても、ロドスが彼女の最高の居場所になれないことはわかっていた。だが、何とかその居場所を与えてやりたかった。
これからもそれは不可能だ。"元の世界"という鎖がある限り。彼女の拠り所は安定しない。

ならば、と天使は武器を全て捨て置き、非情になることを決めた。


「!」


大股に彼女に使付き、その胸倉を掴んで言い放つ。


「もうさくらに帰れるところなんてありません」

「ッ!…い、やだ…離してッ!!」

「元の世界に帰れる方法なんかもう見つからないって、自分でも思っているんでしょう」

「ッ思って、ない…!!」

「…もうないんですよ、君の帰る場所なんて」


辛い言葉が続く。不安定な状況なのに黙認していいのか?―――隊員はそう思っていたが、次にアドナキエルがとった行動で、丸々と目を見開いた。

今も尚、威嚇して即死級の電流を漂わせるさくらを、そのまま引き寄せて強く抱き締めた。

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