第9章 酷い夢
「ドクター」
「何か見つかったか?」
「さくらを連れ去った者に聴取しました。どうやら源石によって不安定になった状態のさくらを源石術で洗脳したようです。それで暴走して、レユニオンも手を付けられなくなったと」
「ふむ」
口に手を当てて考える素振りを見せるドクターに、ドーベルマンが近づいてドクター以外の誰にも聞こえないような声で補足点を話し出す。
「…どうやらレユニオンは、さくらの鉱石病を和らげる能力を知っているわけではなかったようだ。ただ、彼女の強大な力を利用しようとしただけらしい」
「なるほど…それは好都合だ。…だが、これはどうしたものかな」
主に親しかった3人が声をかけているが、もう顔もわからないといった風に拒否を繰り返している。
「術師オペレーター。アーツで檻を破壊せよ」
「「「了解」」」
兎に角壁を取っ払うのが先決だと思ったのだろう。杖や手を振るい、術で柵を破壊していく。
その間に、ドクターは彼女と最も親しかったアドナキエルの腕を掴んで引いた。
「ドクター…」
彼は悲しそうに振り返っては、肩を落としている。
そんな彼の手を掴んでは、ポケットから小瓶と注射器を取り出してはその手に収めた。
「鎮静剤だ。副作用もあるこんなもの…不安定な彼女には使いたくはなかったが…致し方ない。術師数人でさくらの源石術を押さえるからその隙に投与してくれ」
「…ドクター」
アドナキエルは、その2つをドクターに押し返して、真っ直ぐに見つめ返した。
「俺に一度だけチャンスを下さい」
「何をする気だ。さくらにはもう言葉は届かないんだぞ」
ドーベルマンが止めるが、アドナキエルは視線を落しながら頭を下げた。
「一度だけでいいです。…お願いします」
「…」
黙り込むドクターの目の前では、無残にも地面に落ちた鉄格子に、術師オペレーターが指示を待っている。なおも、赤い目は震えて周囲を忙しなく警戒している。
「…」
ドクターはそこから視線を落とし、返されたものを手と共にポケットへ突っ込み、左手を前に向けた。