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【アクナイ】滑稽な慈悲

第8章 全てを見透かしていた者



「!…っ」


天井からは何故か赤くドロリと溶解した鉄が落ちてきて、周囲の氷をじわじわと白煙を上げながら溶かしている。
また、壁も同じく鋭く尖った氷が覆っているが、青い電撃が這いまわっていた。当たってしまえば感電死は免れない高圧なものだと一目でわかる。

地獄絵図。そう呼ぶにふさわしいこの空間の出入り口から一番遠い隅に人影が見えた。恐る恐る近付くと、それは彼らオペレーターが信頼するドクターの後ろ姿があった。


「ドクター…」

「!アドナキエルか。…やられたんだ。…まさか、罠だったなんて」


そう言った彼の手には、一本の剣が握られていた。
そこについた赤い液体は、戦場ではよく見るものだ。


「!ドクターに怪我が…」

「いや私のじゃない。私は今来た所だ。…だが、この源石術はさくらが生み出したものに違いない」


ドクターは部屋を見渡し、溜息を吐いた。


「!!さくらは、さくらはどこに行ったんですか…?」


アドナキエルが珍しく焦ったようにそう言うと、ドクターは視線ごと頭を下に向ける。その様子に、頼む、杞憂であってくれ。と思った。
だが、その思いは届かず、ドクターは顔を上げてついに言った。


「この剣はロドスの物ではない。さくらの力を全開まで引き出すことができるほどに源石が組み込まれた武器など…おそらくレユニオンが用意したものだろう。…そして、この場に彼女がいないということは…攫われてしまったということだ」

「攫、われた…?」

「どこで情報が漏れた…クソ…!」


アドナキエルはもう一度天井を見上げた。
氷柱で穴の開いた強固なはずの訓練室から攫われた。それも、抵抗した痕が尖った氷の先端についた血を見る限り、敵もそう易々と連れ去ったわけではないようだ。
そして、その血が誰の物か。実戦経験のない彼女が激しく抵抗したものだと至るまでそんなに時間はかからなかった。

すると、自然とアドナキエルの手が腰のホルスターに収まっている武器に回った。金色の目も、今や笑みを無くして青空が見えている天井を睨んでいる。

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