第7章 興味本位
「迷子、は間違いないです」
「どこへ行こうとしたの?」
「アーツ専用のトレーニングルームです」
「!あぁ君オペレーターなんだね。じゃあ挨拶しておかないと。僕はクーリエ。僕もドクターの下に就いているんだよ」
よろしくね、と手を出した好青年の手は確かに腰のサーベルを振るうのにぴったりなほどにゴツゴツとした手を持っている。鍛え抜かれているんだなぁ、と思いながらその手を握った。
「私はさくらです。よろしくお願いします、クーリエさん」
「はは、やだな。そんな硬くならなくても大丈夫だよ。それに普通に呼んでくれればいいんだ」
「…クーリエ?」
「うん!あ、お近づきの印にクッキー食べる?購買に売ってるらしいんだけど、美味しくて最近品切れが激しいらしいよ」
ハイ、と出された小分けされていないバケットに入ったそれを見つめる。
「ありがとう…!」
甘い物なんて、この世界に来てから口にしていないことに気付いて口の中が涎で満たされていく。甘い物はあまり好きではないが、久しく食べていないとなると話は別だ。
矢庭に一つ手に取って口に入れた。すぐにじわりと砂糖の甘い味が脳に染みる。
無駄な資源を抑えるため、この世界の料理はどれを食べても味が薄い。はっきり言って美味しくない。このクッキーも薄味の甘さで美味しくはないが、この世界では人気だと言うと、自分の舌が肥えているのだと苦笑いが漏れた。
自分は随分と不自由のない良い世界で育ったようだ。
「我が盟友が話していた異世界者、というのはどうやらお前の事のようだな」
段々と味が分かって来たクッキーを何度も噛みしめていると、そんな声と共にコツコツと靴音が近づいて来た。見ると、まるで乙女がするゲームのような整った顔立ちの男が近づいてきているではないか。