第6章 秘めたる力
ロドスの研究室は多い。その中でも一番大きい核に当たる研究室に滑り込むように入室すると、そこにはアドナキエルがいた。
「あ、ドクター」
「アドナキエルか。何故彼がここに?」
研究員はドクターを一瞥した後、すぐ近くにあった端末を弄りながら言った。
「ドクター。落ち着いて聞いて下さいね…実は、狙撃オペレーターのアドナキエルさんの定期健診で驚きの結果が出ていたんです」
研究員が使い古されて少しガタが来ているキーボードを強めにタン、と叩いた。すると、一番大きなモニターにアドナキエルの診断結果が大きく映し出されていた。
「彼は以前源石融合率9%でした。ですが今、8%まで落ち込んでいるんです」
「何だって!?」
鉱石病は治ることのない病気とされている。故に、融合率は上がる一方で落ち込むことなんて今までなかった。それは彼が少し治って来ているという証拠でもある。
ロドスの悲願―――否、世界中が探し求めていた答えが見つかったようなものだ。
「アドナキエル!いったい何をしたんだ君は…!」
「特に何もしていませんよ。普通に過ごしていただけです」
「食事も睡眠も今まで通りの様です。場所移動も訪れた事のある数か所に赴いただけですし、考えられることなんてありません」
「周囲に変わったことは?と言えば話は別でしょうけどね」
そう言ってニコ、と笑ったアドナキエルにドクターは目を見開いた。
揺れる黒髪の隣には、いつも天使が笑っていた
―――役に立ちたいと前線を希望した異世界人がもし、世界を救う力を持っていたとしたら?
慈悲の塊の彼女と誰よりも多く時間を過ごしたアドナキエルから察するに、もう答えは出ていた。
「術師スチュワードと前衛メランサ、ドーベルマン教官のデータを出せ!今すぐにだ!!」
ドクターの珍しく焦った声が研究室に轟いた。