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【アクナイ】滑稽な慈悲

第5章 鍛錬開始



生きていたら努力だけでは何もできない場合がある。どんな者でも死ぬ時は死ぬ。
それを理解しているドーベルマンは、視線を外してドクターを見据えた。


「平和惚けした女を調教するのは骨が折れそうだが?」

「貴方にならできるだろう?」


その挑発にフッ、と笑ったドーベルマンは背を向けて歩き出した。


「地獄に身を投じる覚悟がある奴は尚更扱き甲斐があるというものだ」


ドーベルマンはそう言い、服を翻して廊下を小走りにかけていく。その後ろ姿をドクターは口角を上げて見つめていた。


―――――――――


彼女はデッキまでやってくると、まだ回り続けているさくらを止めた。


「おい。止まれ」

「っ!…ど、べる…はっ…ああー…」

「いつまでタラタラ走っている。疾うにノルマは終えているだろう」

「そ…なんで、すか…?」

「…カウンターの文字が読めないのか?」

「あ、ぁ…み、るのやめて…ました、ゲホッ…うええ…」

「…そうか。今日は解散だ。さっさと飯を食いに行け」


そう言ったドーベルマンにさくらは汗だくの顔を歪める。


「…正直、何も…入りそうに、ないのですが…」

「ほう?逆らうのか?「!め、滅相もないです!!たべ、食べ、てっきます…!!」残すなよ。明日は7時にここに集合しろ」


この場から走っていく元気があるさくらにフッ、と笑みを浮かべたドーベルマンは不意に天を仰ぐ。そこにはあの窓からドクターが覗いていて、顔を見るなり歩いて行ってしまった。
彼は彼なりの思惑があるのだろう、と考えたその後、カウンターの電源を切るために足を動かした。

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