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【アクナイ】滑稽な慈悲

第5章 鍛錬開始



ここロドスは、優秀な者だけが入れる組織だそうだ。その優秀な者たちが集まる組織の中で1人だけ明らかにダメな奴がいるということで、周囲の嫌悪は簡単に広がっていった。


「(苦しい。やめたい。帰りたい)」


それらの嫌悪を取り込んでまた気持ちがネガティブになっていく。目の前が歪んでいく。
すると、鼓膜を怒号が揺らした。


「泣けば敵が慈悲を与えるとでも思っているのか!!そんな暇があるなら前を見据えろ!!」


グ、と左手の袖で目を拭って足を前に差し出す。するとカチリ、という音が左で鳴る。その音はこの広いデッキの中心に置かれた周回カウント用の機械だ。
その機械はトラックを挟んだ反対側に置かれた表示用の機械と繋がっている。
その表示板に一瞬だけ映った数字を見る度に、体が重くなる気がして2週目あたりで見るのは止めた。

どうせ、何週目か考えている暇もないほどに疲労が溜まっているから数えるだけ無駄だ。
だが、どうしても視界に入ったのは私以外のオペレーターが全員訓練を終えて整列を終えているという事実だ。


「さくら以外は解散しろ!貴様はノルマを終えるまで走り続けろ。サボったらどうなるかわかっているな?…では、解散!」


ドーベルマンさんのことを鬼教官とオペレーターたちがヒソヒソと話していた理由が身に染みて理解できる。
訓練生オペレーターと共にデッキから消えていくドーベルマンさんに、思わず俯いてしまった。
止まってしまえば苦しみから解放される。今ならだれも見ていない。と、悪魔が囁いた。


「ッ」


その考えが一瞬にして消え去って前を向く。鉱石病に罹っているアドナキエルや、あれから仲良くしてくれるスチュワード、メランサ…それと、同じく鉱石病だというドーベルマンさんの顔が瞼の裏に浮かんだからだ。

五体満足で平和な世界でのうのうと生きて来た私に優しくしてくれる、この世界の住人に出来ることとは、彼らの負担を自分が加入することによって少しでも減らすことだ。
戦場に出れたとして足を引っ張る可能性は高い。その可能性を少なくするための訓練だ。どんなノルマでも達成してやる

そんな気持ちでいると、自然と足は勝手に前へ出た。

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