第23章 殺意の目
「お前のせいだッ!!」
「!」
「お前のせいでっ…レイリィは死んだんだ…!!」
聞き馴染んだ名前に思考が止まった。
ザワつき始めるオペレーターたちが一斉に私の顔を見始める。その目は、疑問と恐怖が主を占める。
一体…誰が、死んだって―――?
「やめろ!!確証がないのにそんなこと言う奴があるか!!」
スチュワードが叫んだ。
だが、最初に叫んだ男は目に涙を蓄えたまま、再び悲痛に叫ぶ。
「レイリィはきっと…昨日コイツにフラれて絶望して…死んだんだよ!!これ以上ない証拠だろう!?」
何も入っていないはずの胃から何かが込み上げてくる。
思わず両手で口を覆い、揺れる視界の中、視線を少し下にする。
よく見れば、叫んだ男の足元に灰色の布が被さった何かが見える。
その隙間からはクリーム色の尾が見え「さくら」
突然視界が真っ暗になって、後ろから腹に腕が回った。
「大丈夫。ゆっくり息を吸って。…すぐにここから離れよう」
「あどな、きえる…」
「さぁ、目を瞑って。大丈夫…俺がいるよ」
一歩、二歩と後ろに誘導されて下がっていく。
視界が無くなったことで聴覚が発達して、周りの雑踏の中の噂が耳に入ってくる。
「さくらな。どの種族でもない正体不明の奴」
「レユニオンの使いっぱしりって本当かな?」
「レイリィってやつは弱すぎたんだよ、だから自殺なんて道選んだ」
「情けない奴だ」
私になら兎も角、死者に対する冒涜の言葉も聞こえて、ついに嗚咽が漏れた。
このままでは心が死んでしまう―――そう思った時だった。
「関係のないオペレーターは早々に自分の持ち場に戻れ!!」
その噂話を吹き飛ばすように、一喝する言葉が響いた。目は見えないが聞き馴染んだ声。…ドーベルマンさんの声だ。
「アーミヤ。事態の収拾を。私は彼に話を聞かなければ」
「はい、わかりました。ドクター」
ドクターとアーミヤの声も聞こえる。
場は途端に静寂を取り戻し、靴音だけが耳に入ってくる。
悪意の声が一瞬にして止んだ隙に、私はアドナキエルの誘導に従って目を瞑りながらこの場を離れて行った。