第21章 もどかしく思ったり、思わなかったり

「まだ眩暈が酷いですか？」

「ううん。もう大丈夫だよ。2人とも運んでくれてありがとう」

「それはこちらの台詞」

「助けてもらってありがとうございました」


相変わらず丁寧なだなぁ、と思っていると突然肩が重くなる。
幽霊に憑かれたかな、なんてふざけて見てみると2人は寄りかかってきていて頭を預けている。今日は大分ベタベタしてくる。


「はいはい。2人とも離れてー」


頭を押し返すと、その手を左右の手に取られてしまった。
ひゅ、と息が引っ込む。


「さくらは嫌いですか？」

「うん？」

「僕たちの事」


2人の息がぴったりな言動にピシ、と思考が止まった。
何故そんなことを言ったのか。嫌でも"そうなのか"と勘違いしてしまうじゃないか―――

目が泳いでやたらと喉が渇く。声も裏返ってしまった。


「えっと…？」

「俺の事、避けてません？」

「そんなこと、」

「じゃあ何で離れてなんて言うです？」

「やらなきゃいけないことがあるんだよ。…君らの事は嫌いじゃないし、避けてないよ」


アドナキエルは、視線を落として何かを思考しているし、スチュワードは横目で彼の顔を見ている。
その数秒後、不意に金の目がこちらを向いた。


「もしも…嫌いなら、引っ叩いてけるよね」

「？…アドナキエル…！？」


瞬間、私の服を掴むや否や、金色の目がすぐそこまで近付く。身を引く前に、目は反射的に閉じる。

―――やがてそれは勢い余って触れた。