第20章 無意識の悪魔
「一体何があったの…?」
はっきりとした理由が分からないまま、困っている私に、アンセルはやっと口を開いた。
「突然、ドクターの執務室を訪れた人がいるんです」
「うん?」
「何もない所から…パッと現われる形で」
「!」
どこかで聞いたことのある言葉だ。
黙って話を聞いていると、アンセルは一言謝って私の頭頂部に触れる。
「今のさくらさんみたいに…獣の耳や尻尾がない女性でした」
「!それは…」
「異世界人がもう1人来たってことだよ」
そんなことあり得るのか、とクーリエを見ると彼は真剣な顔をしている。間違いなさそうだ。
「私も見たよ。…でね、その人が近くにいると鼻がおかしくなりそうなの。だからずっと息せずにいるの」
「え?」
「さくらは来た当初からその種族特有のものなのか、臭いには鈍感で味には敏感ですよね」
「え、あぁまぁうん。みんながメランサちゃんの匂いで居場所が分かるって言ってたの意味が分からなかった。それに、今は慣れたから気にならないけど、来た当初は食堂のスープの味は殆どしないって思ってた」
「なら決まりですね。あの人はさくらさんと同じところから来た」
アンセルは苦い顔で言う。
理由を求めると、アンセルは部屋の出入り口を睨んで言った。