第17章 深い謝罪と感謝
「私は貴方を傷付けた。その胸の傷は、一生消えないものでしょう。だから、まず初めに謝ろうと思いここへ来ました」
「…」
「貴方は私を傷付けるつもりなんてなかった。なのに私は貴方を傷付けた。…それは、とても罪な事です。…申し訳ありませんでした」
「…今、お前がやっていることは…誘拐犯を正当防衛で傷付け、結果的に誘拐された後、記憶操作や幻術をかけた相手に対して謝っているんだぞ。謝られる理由なんてない。頭を上げろ」
「…」
ゆっくり頭を上げると、アルガムはベッドから立ち上がり、ゆっくりとこちらまで来ては鉄格子の傍までやって来た。
囚人が着る服の隙間からは、未だ包帯を巻かれた肌が見えて、私に現実的な罪が目に見えて把握できる。
「私の世界では、切り傷一本でも他者に与えてしまうとこういう檻の中に入れられます。貴方の傷は…正当防衛ではなく、過剰防衛によるものです」
「…この世界は、もうお前がいた法律は通用しない。この世界は、殺すか殺されるかなんだ。お前は自分を守るために正しいことをした。俺がこの傷を作ったのは、自分のミスだ」
「…」
「…本当に、平和な世界から来たんだな…そして、沢山の愛を貰って育ったようだ」
「…はい」
アルガムはまたハッ、と笑い立ち上がって腕を組んだ。
私も同様に重い腰を上げて、ノイルほどの身長を持つ彼を見上げた。
「帰れなくて残念だな」
「いいんです、もう。それより大事なことができましたから」
「…そうか。でもな、一々俺みたいに謝りに来たらキリがないぞ」
「アルガムさんで最後にします。あれは自分のために振るった刃でした。…これからは、仲間を守るために振るいますから」
「…なるほどな。ケジメつけに来たわけか」
「はい」
「それで?後は何するんだ?…そんな真新しい武器見せびらかせて」
先程貰ったトンファーは腰のホルスターに収まっている。地面に擦れてギイと音を立てる鋭いナイフの刃先に触れた。
「ケジメとともに、貴方に話を聞きに来ました」
「俺に?」
頷いて、背中に流れる冷や汗を感じながら言った。
「初めて人を殺した日の事を」
アドナキエルとスチュワードは目を見開いて、私の手の中にある得物を見つめた。