第16章 第三者の狼
「レイリィと言います。その節は助けていただいてありがとうございました」
「いえいえ、そんな。私も貴方に助けてもらったのにお礼も言えないままで。私も助かりました。ありがとうございます」
「あはは。本当に、丁寧で慈悲深い方だ。…そんな貴方の性格に惚れたって言ったらどうします?」
翡翠の目が笑う。私は何を言われたか理解できないまま、その目に笑い返した。
「惚れた、あぁ、ありがとうございま……あ、え?惚れたぁ!?」
コンマ数秒思考が停止した後、まるで芸人の安いコントのような反応を見せてしまった。
普通の話し方で、急な告白をされたことに頭がついて行かない。
そういう経験は元の世界で微塵もなかったため、顔が熱を持ち始める。
「いやいやいや待って…!?助けただけで…完全に吊り橋効果ですよ!?」
「訓練であそこまで本気の姿勢で向き合い、飛び出せるなんてこと中々無いですよ。その優しさにも惹かれ、僕は貴方に一目惚れしてしまいました」
柔らかなクリーム色の髪がどこからか入って来た風で揺らぐ。
そんな彼の顔は同じく赤い。からかい目的の嘘ではない。本気なんだと知る。
「返事はまだ無くて構いません。出会ったばかりですから。これから僕に惚れさせます。なので友達から始めてくれませんか?」
「え、えっ」
豪い自信の上に、こちらに配慮がある。元々優しい性格なのだろう。
まぁでも友達なら…と近くに差し出された手を握る。
大きい手だ。それに、沢山修練して来たのだろう。手には肉刺があり、オペレーターとしての努力がうかがえる。
悪い人じゃないようだ。
ニコリと浮かべた笑みに、やんわりと笑顔を送り返した。