第16章 第三者の狼
アドナキエルとスチュワードは何も言わないまま。特にアドナキエルは本当に気まぐれだから急にコロリと無口になる。そんな彼にスチュワードは感化されてしまったのだろうか。
「(嫌じゃなかったらいいんだけど)」
自分も反対方向に歩き出し、執務室を目指す。
ここからは確かそんな遠くなかったはずだ。だがもしも仕事で多忙なら一度帰ろう。
この前もやれ金がないやら、作戦記録がないやら、呟いていて大変そうだったため声をかけるのはやめておいたが、今日は大丈夫だろうか。
「さくら、さん」
心配する私の後ろから、不意に柔らかな声がかかった。
誰だろう、と振り向くと、その顔は見たことがあり、あぁと呟いた
「レクリエーション訓練の時の」
ノイルに追い詰められていた時の、あの新人オペレーターだ。種族は…犬だろうか。ドーベルマンさんと同じ縦に長い耳が伸びていて、毛がふわりとした尻尾を左右に揺らしている。
そんな愛嬌ある種族に加え、整った顔でニコリと笑う。本当にロドスは顔面偏差値が高い。