第16章 第三者の狼
「そういえば、購買に行くって言って結局行ってませんね」
「そういえばそうだね」
「じゃあ今から行きましょう」
それはいつもの4人で食堂にいる時に突然決まったことだ。
本当に突然だなぁ、と思いつつ、食堂から出る時だった。
「……っ!」
不意に眩暈が襲ってきて、食堂の自動ドアがある溝に足を引っ掛けた。後ろや横には誰も居らず、少女漫画のように抱き留めてくれる者はいない。
しかし前にはいた。前にいたアドナキエルの背中に飛び込んだ。
「ッ!さくら?」
「ごめ…ちょっと、眩暈がして…」
「え、大丈夫ですか…!?」
「さくら、少し座ろう」
スチュワードとメランサに支えられながら、その場に膝をついて地面を見る。
栄養失調…ということはない。ここの食堂の職員はオペレーターの健康管理に気遣って栄養のあるものを入れていること知っている。最近慣れて来たのか、味が薄いと感じることも少なくなってきた。
だったら、血の抜きすぎだろうか。それでもドクターが管理しているため、そうではないと知る。
検査の結果から鉱石病でもないことは判明している。だったら、普通の病気だろうか。とも思ったが…
眩暈はすぐに収まった。顔を上げると、眉をハの字にして心配そうに私を見ているアドナキエルがいて、フッと笑った。
「もう大丈夫だよ」
「部屋に帰りましょう」
「もう大丈夫だって。一時的なものみたいだ」
それを証明するためにスッと立ってみせると、右腕にメランサが引っ付いた。
「本当に、そうですか?また…無理してないですか?」
「してないよ」
「何かあったらまた言ってください…私がいますから」
「うん、ありがと!」
そうは言ったが、普通の眩暈ではないことが気がかりだ。後でドクターの元を訪れよう。
突然起こる眩暈なんて医療を目指したりしていない限り何があるかわからないだろう。…アンセルに聞いてもいいが、それだと情報がこの3人に流れてしまうだろう。
「(まぁその前に、彼らとの日常を楽しむかな)」
足は真っ直ぐと、購買に向かっていく。
同時に近付く黒い影も、真っ直ぐに、着実に―――
近付いていた。