第4章 セカンドインパクト
「アドナキエルの餌食になったか」
なんて、声がした気がしたが聞こえないフリをした。はて、餌食とは?
いい加減不安になってくるわ、食べたばっかりで横腹が痛いわで、声を振り絞ってアドナキエルに話しかけた。
「どこ行くのっ…し、しんどい…!!」
「外ですよー…って、凄い。体力ないですね」
息も絶え絶えな私を見て言った。確かに元の世界ではインドア派。動くことなんてあまりなかった。だが食べた後に自分の全力疾走より速いスピードで走ることなんてなかったために、すぐに息は枯れ果てる。
「でもほら、もうすぐですよ!」
「もうすぐって、…はっ…か、階段!?」
無理無理、と首を振るが、慈悲の欠片もなく上がっていく彼に合わせて段を上がっていく。
それも1階や2階ではない。3階、4階、5階と上がっていくのだ。
「(し、死ぬ…!!)」
そう思った時、目の前の扉を勢いよく開いた彼はやっと手を離した。
「着きましたよ。ここがロドスで一番当たりを見渡せる屋上です。って…あれれ?大丈夫ですか?」
地面に突っ伏せる私を心配する。
ただでさえ一睡もしていないというのにこの激しい運動は、流石に体が拒否反応を起こし始めた。
「は…吐きそう…」
「我慢ですよ。ほら、立って下さい」
悪魔じゃないのか、と服を引っ張ってくる天使に渋々立ち上がる。
「!っ…」
すると、ゴウと激しい風が顔を殴る。髪が掻き上がって、汗ばんだ頬や額を乾かしていく。
スン、と呼吸をしてみると、元の世界では嗅いだことのない空気で肺がいっぱいになる。よくわからない不思議な匂いだ。
すると自然と吐き気は収まって行き、徐々に足を前に出して落下防止の柵まで近付いて世界を見渡した。
本当に無機質で、機械でできた建物群。白い靄がかかっているのは何かを作っているからか、されども目の前の綺麗な光景に目を奪われた。
残酷な世界だが、元の世界と変わらないなと思ったのはその醜くも必死にもがきながら生きている人いるということだった。
環境が違うだけで戦争を行っている所や哀れなところは何も変わらない。地球のどこかでは、それらが行われているのだから。
平和な国で過ごし過ぎて、人として忘れていた倫理問題に目を閉じていただけだ。
それを思い出させてくれるこの光景に酷く安堵を覚えた。