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【アクナイ】滑稽な慈悲

第4章 セカンドインパクト



持ってきてくれた朝食をベッドの端に座って頬張る。今日は何となくトイレにお世話になることもないだろうと確信していた。
全ては私の目の前に屈んで、楽しそうに見つめてくる天使のお陰だ。
…しかしいつまでも見つめられては穴が空いてしまうだろう。


「えっと…アドナキエルさん」

「あ、俺に丁寧にすることないですよ」

「えー…っと、じゃあ…アドナキエル。そんなに見つめられるとしんどい」

「駄目ですか?」

「駄目です」


小首を傾げて軽く唇を尖らせたアドナキエルは、立ち上がり、部屋を見渡し始めた。
物珍しいものなんてないだろうに、とその行動を見ていると不意にベッド横にあるカーテンを開けた。
目を刺すような眩しい光に瞳孔がきゅ、と閉まる。


「眩しいっ…!!」

「こんな暗いところに籠ってると良くなりませんよっ」

「ちょ、ちょっとでもこの世界にいることを紛らわせようとしてるんだよ…」


ここのカーテンは来た当初に開いていて、それから一度も開けていなかった。
窓の外から見える無機質な建物に眉を寄せていると、アドナキエルは指先を胸の前で合わせて言う。


「うーん…それじゃあ体を良くするための根本的な解決にはならないですよ。拒否するんじゃなくて、この世界と向き合ってみましょう!」

「え、は、ちょちょちょ、ちょっと待って!!」


食事のトレーをベッドの上に置かれ、手を引っ掴まれて部屋の外へ出た。


「うわ!?」

「わっ!ア、アドナキエルさん…!」


丁度廊下には耳の生えた女の子と青年がいて、目が合った私は思わず逸らした。
その前に手を引かれて走り出してしまったが。後ろで青年の方の怒号が聞こえてくる。


「こ、コラ!アドナキエル!その子をどうするつもりだっ!」

「ちょっとそこまで行くだけですよー」

「環境の変化にその子に何があるかわからない、って…ま、待て!アドナキエル!!」


無視だ。全てを無視していく天使に苦笑いしかできない。天使は走っていくだけで、私は腕を引かれるだけ。
角を曲がる度にキュ、と靴の音が鳴るほどのスピード。人とぶつかってもおかしくないのだが、その反射速度でぶつかる前に避けていく。

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