第16章 第三者の狼
「わぁ!?め、メランサ」
いつの間にか前にメランサがいた。…それに後ろからのしかかって来たのは間違いない。
「さくら、おはようございます!」
「おはよう」
「おはよう2人とも。重いよ」
アドナキエルとスチュワードだ。訓練の時から2人は私にベッタベタにくっついてくるのだが、何かあったのだろうか。
それよりも…
「何にもないよ、ごめん。ちょっと用事があるからまた今度ね」
痣は見られると余計な心配を生むだろう。早く帰って長袖で隠さなければ。
そう思い、2人を振りほどいて背中を向け走り出した。
「リストバンド、貸してあげようか」
その言葉ですぐに止まることになってしまったが。
ゆっくり振り返ると、スチュワードが怪訝そうな顔で近付いてくる。後ずさったが、足の長さ分詰められて、掴まれたのは右腕だった。
「どうして隠すんだ」
「!」
「気付いていないとでも思ってたのか?」
「…」
目を逸らすと、視界の端で後の2人が近づいてきた。
メランサは私の腕の現状を見るなり、その瞳を揺らし、抱き付いて来た。
「どうしてもっと早く言わないんです?」
アドナキエルも気付いていたようだ。私の左腕を取って、袖を上げては痣まみれになった関節部分を指で撫ぜた。
視線を下げると、メランサが丁度顔を上げて私の目をじっと見始める。
「さくらさんは…もう我慢してないって思ってました…でも、私たちのために…また、我慢をしていたんですね…」
「…心配かけると思って「心配しますよ…!」!」
メランサが珍しく声を荒らげた。
その綺麗な目が、段々潤むのを見て目を見開いてぎょっとする。
「さくらさんは、大事なお友達です…!私たちのせいで、無理してほしくない…!」
「メランサ…」
本当に、良い人ばかりだ。この世界は。
鉱石病を治すため、力を利用する。実力行使でレユニオンのように考える人も少なからずいると思っていたが…
今のところ、そんな人はいない。あくまで協力を願い出ているだけだ。