第14章 密室で君を知る
「っんん…!?」
突然、後ろから口を手で塞がれ、腹の上に腕が回って体が後ろに傾いた。そのまま視界はキィ、という音と共に暗くなっていく。
「しっ…」
「!」
顔を軽く上げると、スチュワードの焦った顔が見える。どうやら今はロッカーの中に隠れているようで、スチュワードはロッカーのドアに空いた穴から外を見ている。
「おっと、アドナキエルか」
「(…!)」
その聞いたことのある声にびくりと肩を揺らす。と、腹に回っている腕が少し力を入れて私を抱きしめる。
「(え、何だろうこれ。別の意味でドキドキする)」
「ノイルホーンさん。あ、ここに黒髪の女の子来ませんでした?」
アドナキエルとノイルホーンというあの赤タグの会話が聞こえる。
「あぁ、藍色の服の子か?」
「そうです!」
「さっきコテンパンにやられたのが最後だな…俺も、やられっぱなしは癪だしな。邪魔してくれた男の方は捕まえたんだが…探してんだ」
今、2人に狙われているということで、本格的に恐怖心が勝ってきた。
「っ…」
無意識に自分の口の上を覆っている手を握った。
すると、口から手が離れ、大きい手が私の手を握り、その親指が手の甲を撫でた。
「うーん…こっちに逃げたと思ったんですけどね…」
「得意の索敵が狂う時もあるだろ。持ち場に戻れよ」
「はーい。じゃあ任せました」
「おう」
アドナキエルが去っていく音がする。そのすぐ後、あの重装の鬼…ノイルホーンの足音が遠ざかった行くのも聞こえた。
ふう、と息を吐くと上からも同じように息を吐く音が聞こえた。
「ありがとう、スチュワード…」
「大丈夫だよ。…本当に、アドナキエルは負けず嫌いだな…」
「きゅ!?」
溜息を吐きながら、腕の力を強めて引き寄せられる。ぶわりと顔に熱が集まるのが分かった。
この前の出掛けた時といい、最近こんなことばっかりだ。
「!ご、ごめん…」
「こ!こちらこそご、ごめん…そーいう経験薄いから…」
気まずい雰囲気が流れる。しかし、そんな初心な反応がスチュワードにあるとは思わずつい笑ってしまった。