第14章 密室で君を知る
とりあえず、ロドスの一番端に来てみた。そこで軽く息を整えて物陰に身を隠す。
「(訓練の成果出てる…体力ついてるな…)」
デッキからここまで直線にしても結構な距離があるが、浅い呼吸を繰り返せば胸の動悸は収まった。
だが、これは隠れ鬼。あまりこういう恐怖が絡まった遊びは得意ではないため、体がぶるりと震えた。
捕まってもデッキ50周などもう慣れたものだが…勝って、あのニコニコ笑顔がデッキを走っている様を見てみたいと思ってしまったのだ。
「(…まだ声とか足音はしない…でも鬼の中には猫っぽい種族の子がいたな…)」
本当に訓練された者は音を立てないだろう。それ以前にも、正規部隊なら隠密作戦の仕方など習っていそうだ。
戦略など、軍事が好きな私は元の世界で少し齧った程度に持っているだけだが、現役の兵士たちにどこまで通用するかわからない。
とはいえ、ただこの世界でぼーっと暮らしていたわけじゃない。ドーベルマンさんから新人が頭に叩き込まれる基礎は時間のある時に本を貸してもらって読んでいた。
「(…とにかくここじゃ隠密で来られても見晴らしが悪くて一発アウトだ。挟み込まれても分が悪い。リスキーだけど、上を目指そう)」
身のこなしは前に参加した障害物訓練の時に覚えている。高い所から落ちても大丈夫という3点着地、5点着地を(痣を作りつつも)何とか覚えた。
それでも高い所は怖いが…
「よっと…」
積み上げられたコンテナの上で寝そべりながら周囲を見る。
人がちらほらいるが、腕のタグを見ると青い。彼らの反応からしてみてもまだ鬼が近くにいる様子はなさそうだ。
腕時計を見ると、既に10分が経過している。ということは、鬼はもう解放されている。
だが、来る気配はない。
「(いや…安心できる時ほど警戒を怠るな…本に書いてあったな)」
そう思った数秒後のことだった。