第13章 凍った蠍の火
止めて、ということは何か暴走しているのか、と不安でデッキ前までやって来た。
矢庭に重苦しい扉を力任せに開き、まるで道場破りのようにデッキへ足を踏み入れた
「さくら…!!」
無事だと願いながら名前を呼んだ。すると、感覚が一番初めに掴んだのは肌全体に伝わる冷気だった。
「え…」
いつも訓練で走ることになるデッキには、凍てつく氷柱や所々に凍っていて見る影もない。
その銀世界を支配し彩るのは、今日出掛けたばかりのさくらだった。
「!スチュワード!やった、来てくれた!」
「さくら…これは…」
変わりない元気な姿にホッと胸を撫で下ろして近付く。何が何だかわからない。
「カーディに言われて…さくらを止めて欲しいって言われて来たんだけど…」
「うんあれ嘘」
「何でそんな嘘を…」
「だってスチュワード、勘違いして落ち込んでるんだもん。…もんとか可愛くないな、やめよ」
クツクツ、と笑うさくらに、スチュワードは前髪を掻き上げて溜息を吐く。全てを察した。自分は一杯食わされたのだと。
大人しく話すことに決めた。
「だって、僕は…君を泣かせてしまったから」
「あれは泣くよッ!!」
突然声を荒らげたさくらに青紫色の目が大きく開かれる。
「あれは別に元の世界を思い出したとか、本当に悲しくて泣いたわけじゃなくって、こんなんできるんだって、もう一度見れたんだって滅茶苦茶嬉しかったから出た涙であって…ホントに!!ホントに嬉しかったんだよ!!」
「さくら…」
「悲しいわけでも…元の世界に戻りたいっていう気持ちも今は無いんだよっ…!!」
その訴えにパチパチと数回瞬きした後、何度も、何度も頷きながら視線を落とすスチュワードは、ほんの少しだけ口角を上げて申し訳なさそうな顔をした。
「…そっか………そうか…嬉しいって、お世辞で言ってたのかと思いこんでた…あれで、良かったんだ」
「…?えっと、何が?」
「ううん。こっちの話。…そっか、ごめん。心配かけちゃったな。…えっと、それで、この惨状説明してくれる…?」
一度ぐるりとデッキを見渡したスチュワードは苦笑いを零す。これをドーベルマンに知られると確実にデッキ周回コースだろう。
そんな不安を他所に、さくらはニィ、と笑った