第13章 凍った蠍の火
「(やっちゃった)」
ゴロン、と力無く自室のベッドに身を沈めるスチュワードは大きなため息を吐いた。
「(喜ばせるためなら何だってするって決めて…最後に泣かせるなんてあっちゃならない事だろ…)」
思い出深いものを見て出た悲痛な声は、今も耳の奥に残っている。それを掻き消すように再度溜息を吐いた。
「(置き換えて考えたら恐ろしい。…家族や友人、知り合いさえいない世界でたった一人ぼっちなんて。……思い出させるんじゃなかった。…軽率だった…)」
一度精神が壊れ、天使の助力で戻ってきた彼女。最近は安定して来たというのにまた壊れてしまった。じゃないとあんな声はあげられないだろう。
「はぁ…」
再び溜息を吐いて寝返りを打つ。
もう駄目だ。明日なんて顔をして会えばいい?と自分で自分を責めた。
丁度、そんな時だった―――
「スチュワードくん!」
「?…カーディ?」
「お願い!さくらちゃんを止めて!」
扉の向こうでカーディの焦った声とその言葉の中に出て来た名前で飛び起きた。
慌てて扉を開けると、額に汗を滲ませたカーディがスチュワードを見上げている。
「さくらがどうしたって!?」
「兎に角デッキに行って!!そこにいるからっ…!!」
「わ、わかった…!!」
何が何だかわからず一気に駆け出したスチュワード。
その後ろで両手を合わせ、目をギュッと瞑ったカーディがぺろ、と舌を出していた。