第13章 凍った蠍の火
「おかえり、二人とも」
ロドスに帰って来た二人を一番目に迎えたのはドクターだった。彼は手を後ろに組み、小首を傾げて様子を窺っている。
「ただいま!ドクター!」
「さくら、いつになく嬉しそうだな。楽しかったか?」
「勿論です!」
「ならよかった。…おや、スチュワードは浮かない顔だな」
「…そんなことないですよ。楽しかったです。それより、カーディはどこにいますか?これ外してもらわないと」
「あぁ、もうすぐ来ると思「おかえりー!!どうだったー!?」うぐっ!?」
ドス、という音と共にドクターの体が傾く。貧弱な体は前に崩れ、まるで馬のように四つん這いに倒れてしまった。その上にカーディが乗り、嬉しそうに尻尾を振っている。
「カーディ、これ外して」
「あぁ!無事でよかったね!ちょっと待ってね…」
「いやそれよりドクター潰されてるけどいいの!?」
誰も呻き声を上げるドクターを助けようとはせず、いつもは気に掛けるスチュワードは左手を差し出し、鍵で開けようとしているカーディを見降ろしている。その目は楽しかったとは言えない目だ。
「取れた!」
「もう勝手なことしないで。思ったより痛いんだから」
「スチュワードくん?」
声色がいつもより棘がある、と気付いたカーディは名前を呼ぶが、彼は一歩二歩と歩き出すと、半身振り返り、さくらの目を見つめた。
「今日はごめんね、さくら」
「え?」
驚いた声を出すさくらを置いてスチュワードは歩き出した。
いつもは部屋に送り届けたり、何らかの配慮をするはずの彼だが、あの森から様子がおかしい。
「ぐえぇ…な、何か…うう…あったのか?」
「いえ…私は、本当に楽しかったんですが…スチュワードはそんなことなかったのかな」
「カーディ退いてくれ……ふう、いや私の目にはそう見えなかったが」
カーディを退かして立ち上がったドクターは振り返って廊下の先を見据える。もうそこにスチュワードの姿はない。
「何かやらかした?」
「身に覚えがあるとしたら泣いたぐらいしか」
「うんそれだよ…さくらちゃん…」
「いや感動して泣いただけだよ!?」
「何に感動したんだ?」
首を傾げるドクターに、今日会ったことを丁寧に話していく。黙って二人は聞いていたやがて頭を抱えた。