第13章 凍った蠍の火
「蠍の火。最初は尻尾に来る赤い星なんだって思ってたけど、博物館で色々な星座を見ているとそうじゃないのかなって思ってね」
スチュワードが手を伸ばしたのは蠍の胸部、赤い宝石が他の氷の光に反射して赤く光っていた。
「命が燃えるって言うから、もしかしたら心臓なんじゃないかって思って」
「…」
「合ってた?…って、何で泣いてるんだ!?」
「あ、やば…」
ブラウンの目は潤み、そこからポロポロと大粒の涙を流していた。
その様子を見たスチュワードは、慌てたせいで杖への集中を怠ってしまった。
「あっ」
その途端に氷の蠍はパキ、という音と共に崩れてしまう。光は無くなり、森はまた暗くて静かなものに戻ってしまった。
「ご、ごめん…泣かせるつもりはなかったんだけど…」
「いやいや…感動しちゃって。また見れるなんて思ってなかったから」
「…はは。喜んでもらえて良かった」
「うん。めっちゃ嬉しい!蠍の火の意味がわかるなんてスチュワードが改めて凄いんだなってことが良く分かったよ!…本当、本当ね!ありがとう!………っ、ありがと、ね…」
感極まったさくらがその場に蹲る。
木々や見ていた鳥も肩を落とす、そんな泣き声にスチュワードは尻尾を垂れ下げた。
結果的に元の世界を思い出させてしまったこと。泣かせてしまった事を悔いた。
初めての外出は失敗か、と移した視線の端では赤い石が寂しそうに氷の結晶と共に地面に転がっていた。