第13章 凍った蠍の火
「これやったの誰だ…地面も…レユニオンも凍って動けないみたいだし…」
そんな呆れた近衛兵の声を遠くで聞きながら、二人は落ち着いて来た現場から抜け出し、月の下を歩いていた。
「良かったの?」
「うん。それにもうすぐ帰らないとドクターに怒られちゃうから。現場説明だけで時間使いたくない」
「でもこっちは来た道と違うよ?」
「まだ君に蠍の火を見せてないからね」
そう言ったスチュワードに連れられ、街から少し離れた暗い森林の真ん中にやって来た。
思わぬ侵入者に、虫は静まり返り、鳥は物音ひとつ立てず木の上でただ二人を見守っている。
「実物がどんなのかわからないし、上手く行くかわからないけど」
スチュワードは再び杖を抜くと、宙にクルクルと弧を描いて振るう。すると、白い靄と共に頭上へ氷の粒が舞う。
それだけで十分幻想的だったが、スチュワードは杖を持っている手を振り上げた。瞬間、杖ではないその手の中のものが放り投げられ、天高く飛んで行く。
「あ…」
さくらの目映ったそれは、何でもないただの赤い、とても赤い石だった。
「それ!」
それが降下するその前に、再び杖を振るう。すると、パン、という軽い音と共に宙を舞っていた小粒の氷が光り輝いて各々質量を増し、形を成していく。赤い宝石は大きく膨大する氷に飲み込まれ、あっという間に包まれてしまった。
その形に見覚えがあったさくらは、思わず左手で口を覆った。
宙に出来た氷の蠍は、各所に発光する氷が埋め込まれ内部で光り輝き、まるで本当の星座がそこにあるようだ。