第13章 凍った蠍の火
「な、何…!?」
前方、中央広場の向かい側。100メートルほど離れたところに随分と見慣れた白装束の集団が怒号を飛ばしていた。レユニオンの兵士だ。
明らかに単独活動による少人数の犯行だと瞬時に察したスチュワードははぁ、と溜息を吐いた。
「まったく…空気の読めない集団だな…」
事態の収拾に掛かる。それは一ロドスの隊員としての使命。この街を見捨てて逃げ出すという選択肢はなかった。
「っ!スチュワード!!」
ただそれは必然的に隣にいる大事なものを危険に晒すリスクがあった。
今まさに、さくらの左手がいつの間にか進軍していたレユニオン兵の一人に捕まれグ、と引かれている。
しかし、たったそれだけ。
いくら手を引いても一向に自分の方に傾かない女の体を不思議に思っていた。貧弱そうな体のどこにそんな踏ん張る力が、と思っていたのも束の間。
その隣にいた男が怒り立った笑みを見せ、額に青筋を立てながら右手を上げる。その手首についている錠を見せびらかしていた。
「さくらに…っ触れてくれるな!!」
「うぐぁ…!!」
長い足が鳩尾に入る。と、その体はプロテクターに守られているにもかかわらず数メートル先まで飛んだ。
「はぁ。カーディの手錠が役に立ったな…さくら。手、痛くなかった?大丈夫?」
「うんありがとう大丈夫だけどとっても笑顔が怖かったよ…」
「心外だなぁ。…って、早くなんとかしないと。ごめん、本当は手錠外して隠れていてって言うべきなんだろうけど、傍にいてくれた方がさっきみたいなことなくて安心するんだ。ついて来てくれる?」
「も、勿論…!」
と、言ったさくらの声は僅かに震えていた。誘拐事件の後にこの騒動なのだ。心中察するに余りある。
―――だが、二度目はない。起こさせない。あんな表情…二度もさせてたまるか。
「僕が守るよ」
左手は大事そうにさくらの手を握ったまま。右手で左大腿に装着していたホルスターから手馴れたように杖を抜き取った。