第13章 凍った蠍の火
「うわ…!でか!」
暗闇の空間を抜けた先は薄暗いドーム状の空間に繋がっていた。
その中心には何メートルもある筒状の機械が置かれていて、その先端は天井に開いた穴に向かっている。
「天体望遠鏡なんだって。一般でも利用できて人気だからこの混み具合も分かるね」
「気になるけど、こーれは何時間かかるんだ?」
目に見えて動く様子のない長蛇の列に小首を傾げる。それも大半がカップルだ。仲良くしているのは結構だが、望遠鏡の前に居座るのはいかがなものか?
「望遠鏡は仕方ないけど、どうせ一人ずつしか見れないし、外出て見ようよ。その方が楽しいよ!」
と、言ったのは照れ隠し。早くこの場から離れたいがためだった。
ここにいると幸せなカップルたちの"そういう雰囲気"が移ってしまう気がして非常に失礼だと感じたのだ。
スチュワードはただ自分を連れて来ただけ。そういう風に思われてしまえば可哀想だ。と今度は自分が前に出て出口まで先導する。
「(…似合わないんだよなぁ。純日本人体型の私には)」
ガラス越しに映った自分の姿は、彼とは不釣り合いだと嘲た。カーディに貸してもらった服も最初こそ可愛いだのなんだの吠えていたが、今や不格好に思える。
「(酸っぱい葡萄みたい)」
高いところの葡萄が取れずに酸っぱいものだと決めつけて去って行った狐のように、今の自分はとても無様だと嘲笑した。
そんな落ち込んだ姿を、賢い狐は見逃さない。
「この後、さくらに見せたいものがあるんだ」
「見せたいもの?」
「うん。ちょっとここから歩くけど、最後に天体観測ついでに。…いいかな?」
「?うん」
そう言われるがまま、右手を引かれて博物館の外に出る。既に帳が降り、一日が死ぬ準備をしている時間になっていた。
外出時間は予めドクターとの約束していた20時と決まっている。
残り1時間と30分。
「(…時間がない)」
腕時計に視線を落としたスチュワードは一歩前に足を差し出した。
そんな時だった。前方から盛大な爆発音が鳴り響いたのは。