第13章 凍った蠍の火
「私の種族は…なんだろう。みんな一緒。国で肌の色とか目の色とか、言葉は違ったりするけど、みんな尻尾とかはないよ」
「へえ。言葉も違うのか…それはますます不思議な世界だね」
「だからブチィされるんだよ!…ごめんなふぁい」
「分かれば良し」
引っ張られた頬を擦りながら、再びキツネの星座を見上げる。
手を上げてみると、それは空よりもすぐ近くにあったが届きそうにはない。
「…これも見たいなぁ。…ヴァルポ座?」
「今日も天気がいいから。これも探そうね」
「めっちゃ可愛い。絶対見つける」
「うん僕の耳見ながら言うのやめて。あとその手も何か嫌だ」
「触りたい欲が!ああ出来心でつい!」
唯一自由な左手を胸の高さまで上げ、少し前に出すその姿はまるで怪獣のような仕草だ。だが触るつもりはないのだろう。近場で停滞しては指先を伸ばしたり曲げたり、という単純な動きを繰り返している。
スチュワードは小さく溜息を吐き、軽く頭を下げた。
その行動で容易に意図が察せられたさくらは、目を見開いて雪色の頭頂部に話しかけた。
「いいの!?」
「少しだけね」
「うわあああやった…!」
来たばかりの頃は遠慮も何もなしに鷲掴んでいた先民のその耳に手を伸ばす。
指先が触れるとピクピク、と動いてその後ピタリと止まった。
手のひらで包むように、大きな耳に優しく触れる。それは髪の毛の質感ではない。完全に獣の毛に触感に、思わずさくらの口から感激の吐息が漏れた。
「ふわふわのモコモコだ!ありがと!」
「…本当に不思議だな。耳だけでそんな喜ぶなんて」
「動物好きなんだよね!狐好きだよ!」
「…………僕も好きだよ」
「可愛いよね!」
「……うん。可愛い」
会話が合っているようで合っていないのをさくらは知らない。天を仰ぎながら深い溜息を吐くスチュワードの目に桃色の一等星が輝く。今日は随分と参っているんだと知る。とても厄介な病だ。
「(…好きなんだなぁ)」
そう呟いて、さりげなく勇気を振り絞り、左手で握った彼女の右手を握り直した。