第13章 凍った蠍の火
壁や床、天井に埋め込まれたライト。360度全てが空のような感覚に陥る空間だ。
スチュワードはその光の一つに手を伸ばし、その横に貼られた紙の題名を口に出して読む。
「イグニス座…へぇ。面白い形だな…」
星と星を繋ぐように指先が壁を撫でる。その姿をぼーっと見ているだけのさくらは星どころではない事態に気が気じゃない。
「(…もうデートじゃん)」
気付いてしまえば頭はそれを常に認識してしまう。今まで気づかなかった自分は一体何を考えていたのか。…遊ぶことしか考えていなかったんだろうな、と数時間前の自分をぶん殴りたい衝動にかられた。
「さくらの言う赤い星っぽいけど」
とはいえ先程から目の前の星を見ては首を傾げているスチュワードをいつまでも放置しているわけにいかない。
さくらは顔の熱を拭うように隣に並んで、同じようにそこにある赤い星に手を伸ばした。
「これは白っぽい赤だね」
「ちょっと違う?」
「うん。でもこんな感じに綺麗だよ。…これって見れるのかな」
「後で探してみようか」
「やっぱり実際に見たいよね」
「うん」
この世界にある赤い星に別れを告げ、再び暗闇の中を行く。
立ち止まることなく歩きながら星々に目を向ける。
そこには青い星や黄色い星。星座を成しているその形が不思議なもの。元の世界と一致する星は当然ながらない。
それでも、この世界の星の輝きは比較してもそう変わらない。
「ん?……はは!スチュワード、キツネの形した星座があるよ!」
天井を仰ぐと、全体的に小さいが青い点と点が繋がっており、それはまるで青いキツネがこちらを見ているような星座がそこにあった
「ホントだ。…ヴァルポ座。そのままだね」
「ヴァルポとは一体?」
「僕の種族の名前。サンクタみたいなものだよ」
「あぁ!なるほど!ヴァルポかぁ」
「…さくらの種族は…」
そう恐る恐る言葉にしたスチュワードには遠慮があった。元の世界の話は極力しないようにと配慮していたからだ。
だが、さくらは小さく笑い、その質問に口を開いた。