第13章 凍った蠍の火
一歩前を行くさくらに追いついて手を引っ張って止める。振り返ったその表情はやや膨れっ面だ。
「拗ねないで。揶揄っただけだよ」
「揶揄われましたー」
「ごめんごめん。待って、ほらそこ階段。危ないから」
今度はスチュワードが一歩前に出る。すると、階段がすぐ足元にあることを示すために、コンコン、と地面を蹴ってみせた。
「危な。普通に見てなかった」
「だと思った。ほら気を付けて」
「!」
何も言わず、さりげなく大きくて骨ばった手がさくらの手の甲から覆うように掴んだ。
指先一つ動かすことができずに、ただ一歩ずつ足を動かし、階段を下りていく。
下り切るまでに心が動揺し、躓いて何度前を行くスチュワードの背中に飛び込みそうになったかはわからない。
「イケメン…そういうとこズルいと思うよ…」
「ん?何?」
「何でもない…」
暗闇で良かった、と呟きながら空いている左手で顔を覆った。