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【アクナイ】滑稽な慈悲

第13章 凍った蠍の火



その博物館は星の他に化石や剥製の動物など、様々なジャンルに分かれ展示がされている。
彼女の目にはその一つ一つが珍しく映り、横の説明書きまで丁寧に呼んでは喜怒哀楽を零していく。


「元の世界では博物館に来ても何とも思わなかったけど、こうしてゆっくり見ると感慨深いよ」

「そうだね。僕がさくらの立場で、そっちの世界に行ったとしたら多分そうなると思うよ」

「…きっとスチュワードがあっちに行ったらその耳と尻尾で驚かれて研究機関に送られるだろうけどね…」

「え!?」


咄嗟に両手で頭の上に生えた耳を抑えるスチュワード。その手につられて手錠に繋がれたさくらの右手も頭上に上がる。


「何だその行動可愛い」


そう言って上がった右手でスチュワードの髪をクシャ、と撫でた。すると瞳孔はキュ、と閉まり、尻尾はピン、と縦に立った。その毛は逆立っている。


「か、可愛いは嬉しくないんだけどな…」

「だって怖いんでしょ!もしかしたら…耳と尻尾引っこ抜かれるかもね!ブチィ!」

「さくら!」

「はは!ジョーダンだよー!あ、ほら!星の展示場はあっちだって!行こ!」

「っ…まったく…転ぶって言ってるだろ、ほら危ないから」


グイグイ、と服を引っ張る腕を逆に加減をして引っ張り返しながら前へ進んでいく。

その足取りは、星の展示場、と書かれた看板の前でゆっくりと止まった。


「圧倒的暗さにビックリしていますが?」


まるで光と影の境界線のように、その看板から向こうは暗闇で覆われていた。それは運営が停止しているんじゃないかと不安になるほどに。
だが、青色寒色系の足元灯がわずかに道を示しているため、そうではないことを知る。


「そりゃあ星を展示しているんだからそうだよ。…それとも何?怖い?」

「なっ…」


先程の煽った言葉を根に持っていたらしい。スチュワードは意地悪な笑みを浮かべてさくらを見降ろした。
突然の仕返しに顔がかぁ、と赤くなったさくらはそのままそっぽを向いて右手を少し振るった。ジャラ、と鎖の音が静かな暗闇の中へ消えて行った。


「怖くないわい!」

「何その喋り方。面白いなぁ」


完全にペースがあちらだ、このままでは飲み込まれる。と危惧したさくらは一歩暗闇に足を差し出した。

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