第13章 凍った蠍の火
「ワッフルとかおしゃれか!」
ウインドウショッピングに少し疲れた、と座ったベンチで15時のおやつを頬張る二人の手には、それぞれ手のひらサイズのワッフルが掴まれている。
香るのはメープルの匂いと、果実の匂い。サク、という音が二人の食欲を煽った。
「スチュワードのそれは何味だっけ」
「ブドウ?だって言ってた」
「ブドウ…狐に、葡萄…それは、酸っぱい葡萄じゃない?」
嘲笑気味に言ったさくらの脳裏には、木の上のブドウを取ろうとして結局諦める狐の姿があった。
だが、その話がわからなかったスチュワードは、小首を傾げて困った笑顔を浮かべる。
「えっと、酸っぱくないけど、食べてみる?」
はい、と出された薄紫色掛かったワッフルに驚いたが、身を乗り出してはガブ、と噛んで身を引いた。
咀嚼するや否や口いっぱいに広がる果実の甘味に目を見開いて口角を上げる。
「美味です…!!」
「顔見たらよく分かるよ」
「ふ、ははっ!そっか。じゃあ私のもドーゾ!」
メイプルが練り込んである生地の上に、さらに軽く塗られたメイプルが輝く。それでもサクサクの生地は少しもその良さを殺していなかった。
「まったく…ホントそういうところだよ」
同じように少し体を傾けたスチュワードは、ワッフルに顔を近づける。
「!」
その距離がいつもより近くて、さくらは目を見開いた。
宝石のような青紫色の目が、目と鼻の先にあるだけ。長い睫がぱたりと瞬くだけ。たったそれだけのことにドキリ、とした。
「メープルも美味しいね」
「へ?あ、あぁうん」
「さくら?」
上体を戻したスチュワードが口の端についたメープルを舐め取りながらきょとんとさくらを見る。
妙な色気を感じてブラウンの瞳は明後日の方向に泳いでいった。
さらには気まずい間が空いたことに焦りを感じたのか、
「こ、この後どこ行くのかなーと思いましてね!?」
声が盛大に裏返ってしまった。
それに一瞬驚いたスチュワードだったが、フッと笑って前を向いた。
噴水を挟んだ奥にある建物は象徴とでも言うように、静かにそびえ建っていた。