第13章 凍った蠍の火
「端から見れば警察と犯人だね~」
「さくらの広い心にはホント頭が上がらないよ…」
「心配されるのは嬉しいからね。さて!どこ行くの!」
嬉しそうに笑うさくらに、口を曲げていたスチュワードもつられて笑う。
傍から見ればその姿は恋人のそれだ。それを意識したのか、青紫色の瞳がどこか不安定に揺れている。
一度キュ、と瞼を下ろし、ゆっくり開いた彼は気持ちをリセットして足を前に出した。
「何も考えずちょっと歩こうよ」
「!行こう行こう!」
少し街に足を踏み入れたら、そこはまるで魔法使いたちがいそうな煉瓦細工の家々が並んでいる。
客寄せをする店主は愛想を振りまき、手に紙袋を持った女性はガラスケースに入った小綺麗な服に目を爛々とさせている。
まるで物語のような街並みに体が勝手に震えた。
「あれもこれも見た事ないものばっかり…!」
「いいよ、好きに見に行って。ついて行くから」
「やった!あれは?あの店は何?見たい!」
子連れと保護者、もしくは兄妹のような会話に聞こえて少し首を捻ったスチュワードは、不意にさくらの手首を握った。
「!おわ、ごめん!歩くの早かった?」
「!…こ、転ぶから危ないよって、言いたかったんだ」
「!そっか。私が転ぶとコイツのせいでスチュワードも道連れだからなぁ…ごめんありがと!」
そういう意味じゃないんだけど、と前を歩くさくらの目を盗んで視線を落とす。銀の手錠は相変わらずこちらを見ては嘲笑っている。
まるで、指先が触れるだけで繕った表情が緩む僕を滑稽だと言うように―――
「(カーディの馬鹿…)」
気が気でない距離感と状況に、空いている右手で顔を覆うと、手錠から視線を外してそっぽを向いた。