第13章 凍った蠍の火
さくらが"そんな恰好で行って良いと思ってるの!"とカーディに怒られた数時間後。
大都市の上で輝く太陽は丁度真上に来て二人を歓迎するようにニコニコと笑う。
だが、その二人を繋ぐように手首で光る銀の拘束具はまるでわが物顔のようにそこでジャラリ、と揺れた。
「ホントごめん。止められなくて…」
「す、スチュワードのせいじゃないよ」
さくらの右手首とスチュワードの左手首に嵌められたそれは所謂手錠。それはロドスを出発する前にカーディによってつけられたものだ。
―――――――――
『ヴィクトリアに行くの?あそこ広いから迷いそう!それにさくらちゃんはドクターから聞いたところ、方向音痴だからすぐにいなくなっちゃいそう!』
『う、煩いよ!』
『ていうことで、私がこれあげるね!』
『え、ちょっと』
ガチャン、という冷たい音と共に着けられたのは、警察が犯人につける銀色の手錠だった。それも重く、玩具ではないことを知る。
『か、カーディ!!どうするんだこれ!!』
『だって心配なんだもん!さくらちゃんがスチュワードくんから離れないようにしてあげたの!』
『!はぁああ…ほら外して。早く』
『駄目!私が心配なの!もしものことがあったら守れないんだから!』
『僕一人でも守れるよ…ほら、外して』
『駄目!!ほら早く行って!!アドナキエルくんが来ちゃうよ!』
奴なら絶対ついて来るだろうなぁ、と思うさくらの傍ら、それは駄目だ、と焦り始めるスチュワードはムス、とした顔で溜息を吐いた。
『仕方がない…行ってくるよ』
『あぁ。スチュワード、さくらを頼んだぞ』
『任せてください、ドクター』
見送るドクターの口元は柔らかだ。
わざわざヴィクトリア近くにロドスを移動させているところ、単純にさくらの息抜きになるようにという計らいだろう。
それに甘えて今日という日を迎えたというのに。
手を揺らす度に揺れるチェーンの付いた手錠に、本日何度目かの溜息を吐いたスチュワードだった。
―――――――――