第2章 乗り越えた先に_
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目の前には、坂木の端正な顔
でも、いつもの坂木じゃない
「…そういうお前こそ…どうなんだよ」
『ッ!…は?』
「っ…お前こそ近藤学生の事が好きなんだろ?
最近、ずっと話してるもんな!」
いきなり何を言い出すのかと思いきや、私が勇美の事を好き?
ずっと話してる?
確かに、廊下とかで会った時は話してるけどそれは近況の話だ
それに勇美はあくまで弟
それ以下でもそれ以上でもない
『っ…違っ!それは…!』
「あ?何が違うんだよ
好きなんだろ?」
『っ…今は…勇美は関係ないでしょ!!』
そう、勇美は関係ない
今は、岡上学生の話をしてるのだ
そんな事、関係ない…
そう思って坂木の方を見ると目を見開いたまま動かなかった
「ッ!勇美…だと?」
坂木の顔色が変わっていく
いや、正確には怒りの表情に変わったと言った方がいいのだろう
私何か変な事…
“勇美は関係ないでしょ!!”
先程言ったことがクリアに蘇る
やってしまった。
そう
勇美のことを名前で呼んでしまったのだ
『ぁ…!いや…違う…これは…その…』
慌てて弁解するも坂木は聞く耳を持たず冷たい目で私を見た
「…そうかよ…。名前呼びするまで仲良くなったって訳か」
『だから違うって!』
「楽しそうに話してたもんな
良かったじゃねぇか、お似合いだぞ」
『ッ!』
その瞬間、私の中で何かがキレた
分からない
なんでそんな事言うの?
勇美とはただの兄弟
そうやって言えば済む話なのかもしれない
でも、言えなかった
何故かその言葉が出なかった
『っ…いて…』
「あ?」
『っ…最低!!
坂木なんてもう知らない!
大っ嫌いっ!!』
「ッ!」
バンッ!と目の前にあった坂木の胸を押し退け扉へ駆ける
何故か涙が溢れてくる
泣くな、泣くな
後ろで坂木が何か言っていたが、私は無視して走った
聞きたくない
早くここから去りたい
そんな一心で、私はトイレへと向かった
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