第13章 囮捜査って禁止されてるよね
遼は小さく溜息をつくと、繋いだ手を軽く引いた。
「遼さん、どうかしましたか?」
「あのね、付き合って欲しい所があるの」
「はい、構いませんが」
「良かった。えっと、確か現場は……」
携帯電話を取り出した遼は、地図の写真を開いて場所を確認すると、そこへ新八を誘う。
「あ、ここだ」
「えっ──ええぇぇっっ!?」
「や、やっぱり駄目だよね?」
「だっ、駄目って言うか、いっ、良いんですか?!」
狼狽える新八に、遼はこくりと頷いて耳打ちした。
「実はね、被害現場がこの周辺なの。ホテルを出たところを狙われるみたいだから……その、」
もごもごと言い淀んだ遼に、新八はごくりと息を飲む。
何をするわけでもないのだが、所謂ラブホテルに遼と二人で入るのは非常に勇気がいった。
捜査の一環だとわかっていても、躊躇ってしまう。
「ごめんね、変な事を頼んじゃって。嫌だったら断って──」
「いっ、嫌だなんて!
それより遼さんはいいんですか?」
「えっ、うん」
頷いた遼に、新八は一瞬心臓が止まった。
インカムの向こうで沖田が『殺す』と言わなければ、暫く立ち竦んでいたかもしれない。
「遼さん、じゃあ、はっ、入りましょうか」
ぎこちない新八の様子に苦笑しながらも、遼はその隣を歩いて中に入る。
選んだ部屋は、ごく普通のビジネスホテルと変わらない装飾で、遼は感心したように辺りを見回した。
「遼さん、どうかしましたか?」
「えっ、いや、こういう所初めて来たから。もっと特殊な感じなのかなーって思ってたけど、意外と普通な感じだね」
「そうですね。きっと、店にもよるんでしょうけどここは……」
「へぇ、新八くん詳しいんだ」
悪戯っぽく笑った遼に、新八は慌てて「万事屋の仕事で」と弁明する。
あまりの慌てように、遼は「冗談だよ」と新八の肩を軽く叩いた。
「でもこんな所、任務でも無ければ一生来ることなんてなかったかも」
「え?」
「だって、好きな人とじゃないと入れないでしょ」
そう言ってベッドに座った遼は、ごろりと大の字に寝転がる。
その姿を見た新八は、すっと顔を背けた。