第14章 表と裏(作成中)
武市の言葉に、遼は納得すると同時に高杉の真意を理解した。
高杉は恐らく、武市が遼を解放するところまで織り込み済みで計画を立てていたのだろう。それは全て、遼を護るためだ。
悔し気に遼の唇が引き結ばれたのを確認した武市は、溜息を一つつくと背を向けた。
「では、おとなしく解放されて下さい」
「……はい」
頷いた遼は、黙って後をついて行く。
長い廊下を歩いて辿り着いたのは、見慣れた風景の江戸の町を見下ろせる甲板で、遼は安堵すると同時に不安を覚えた。
「間もなく着陸します。振り返らず、あなたの戻りたい場所に行きなさい」
「戻りたい、場所?」
「ええ。真選組か、水戸か、それとも――いいえ、これ以上は私が述べる事ではありませんね。ですが、一つだけお伝えしておきます。我々は貴女がこのまま消えてくれることを望みますが、晋助殿はきっと……」
ふいの突風によって、武市の言葉は掻き消える。けれど、遼の耳には確かに届いていた。
「武市さん……もし良かったら、晋ちゃんに伝えてください。「次会ったら、覚えてろ。全力でぶった斬る」って」
「わかりました。きっと、喜ぶでしょう」
ふっと笑って頷いた武市に、今度は遼が背を向ける。轟音と共に着陸した船から降りた遼は、武市の言いつけ通りに振り返らず歩き出した。
どこに帰るかなんて決まっている筈なのに、何故か足取りは重くなる。
顔を上げると、天高くそびえるターミナルが視界に入り、眉を顰めた。
天人の血が流れている遼が、尊王攘夷を掲げる水戸に仕え、真選組で浪士を捕縛して回っている。
「何ものでもない私が居られる場所なんて、本当はどこにもないのに……」
真選組での生活は、楽しくて離れがたくなってきていた。理由は簡単だ。幼い頃に銀時たちと過ごしたあの楽しかった時間と、真選組で過ごす時間はとても良く似ている。
笑ったり、怒ったり、呆れたり、人間らしくいられるあの場所は、遼の居場所になりつつあった。
その場所が、何者かによって壊滅させられようとしている。
「きっともう、間に合わないんだろうな」
遼が解放されたこのタイミングは、きっともう手遅れなのだろう事は容易に理解できた。