第13章 囮捜査って禁止されてるよね
「出来たみたい。ほら、新八くん見てみて、ラクガキコーナーだって」
遼は新八を引っ張って画面を覗くと、「二人とも何か緊張してるね」と笑う。
新八はぎこちなく笑いながら頷くが、距離の近さや触れ合う体に気が気でなく、話が殆ど頭に入って来なかった。
「あっ、出来てる。へぇ~、何かすごいね」
プリクラを嬉しそうに眺める遼に、新八ははっと我に返る。
すっかり浮かれてしまっていたが、今は囮捜査中だ。どこかで彼らが監視している。
「新八くん、はいどうぞ」
「え?」
「プリクラ、半分にしたから──あっ、要らなかった?」
「とんでもない!有難く頂きます!!」
「ふふっ、そんな大袈裟な」
差し出されたプリクラを大事そうに受け取る新八に、遼はくすぐったいような気持ちになり、照れ笑う。
「ありがとう新八くん」
「え?」
「何だか、普通の女の子みたいな事が出来てるなって、嬉しくなっちゃって」
遼の表情に、新八はどきりと心臓が跳ねる音を聞いた。
同時に、頭の奥の冷静な自分が告げる。
(叶わない想いなんて、持つべきじゃない)
いくら好きになったとしても、無駄だ。
「新八くん?」
「っ、ああ、楽しんでもらえているなら良かったです」
「すごく楽しんでるよ。今日は、新八くんに来てもらえて本当に良かったよ」
一瞬、囮捜査という事を忘れてしまう。
いつか、何の柵もなくこうやって二人で──皆で笑いあえたらと、期待をしてしまう自分がいた。
ふと、遼がきょろきょろと辺りを見渡す。
「どうかしましたか?」
「今、誰かが舌打ちする音が聞こえて」
「もしかして……」
「うん。誘き出せるかわからないけど、外に出てみようか」
頷いて、店の外に出る。
不自然についてくる気配に気付いた二人は、顔を見合わせると暫く会話をしながら町を歩いた。
確かに気配はついて来るのだが、攻撃に転じるような敵意は感じられず、遼はどうしようかと考え込む。
これまで襲われたカップルの殆どが、繁華街ではなく、裏通り……それも、ホテル街を歩いていた。
特に、ホテルから出て来た所を狙われたケースが多く、被害者が状況を説明したがらなかったりと、情報収集がうまくいっていない。
(やっぱり、試してみるしかないよね)