第13章 囮捜査って禁止されてるよね
囮捜査当日。
新八は家康像の前に赴いた。
「やっぱり早く来すぎたかなぁ…」
時計は予定時刻の三十分前を指している。当然、遼の気配は無い。
前回の…エロメスとのデートの時は妙な方向に気合いが入って見当違いな格好・言動をしてしまった新八だが、今日はあくまで依頼の一貫と言う事もあり、普段着で落ち着いた面持ちである。
ただ、出掛けに姉の妙から「一生に一度のチャンスだと思って臨みなさい」と、柏手を打ってはっぱを掛けられ、その目に若干の恐怖を覚えた。
「やっぱり姉上は遼さんの事諦めてないんだなぁ…」
新八としては、姉には早く諦めてほしい。
でないといつまでも、自分が遼を諦められない。
「どうせ僕には高嶺の華なんだから」
遼自身は気付いていないようだが、遼は沢山の人達から愛情を向けられている。
新八がいくら遼に想いを向けたとしても、叶う筈がない。
それに、いつも見ているから知っている。
遼には「誰か好きな人」がいる。
「新八くん?」
「え?」
余程深く考え込んでいたのか、新八は掛けられた声に驚いて顔を上げた。
「もしかして、待たせてたかな?」
「遼、さん?」
そこに居るのは間違いなく遼なのだが、纏っている服や髪型がいつもと違っていて、新八は暫く言葉を失った。
驚いた様子の新八に、遼は照れくさそうに頭を掻く。
「せっかくだから、お通ちゃんぽい格好してみちゃった」
「あ、え、すっ、すごく似合ってます!」
「本当?じゃあ良かった」
ほっとした顔で笑う遼に、新八もつられて笑顔になる。
「新八くん、今日は一日宜しくお願いします」
「あ、はい!こちらこそ!」
遼の畏まった挨拶に、これが仕事なのだと思い出され、新八は軽く唇を噛んだ。
「(現実を見ないと……)ん?」
はぁ、と溜息を吐いた新八の視界の隅に、キラリと光る物が入る。
(何だろう、あの草叢の……)
思わず目を凝らして前のめりになった新八に、遼が小声で「多分、真選組の誰かだと思う」と伝える。