第12章 大切な人を失った
「普通はそうだろ」
「ですよね。でも、思ったんです。両親の好きな花を供えたいなって。でも、好きな花なんて知らなくて……だから、無理矢理意味を持たせたんです」
そう語る遼の横顔を、沖田は静かに見つめた。
目が離せなくなったという方が正しいかもしれない。
「父さまや母さまと過ごせた時間は、みんなと過ごせた時間は……それから、真選組に居られる今は、幸せなんですって伝えられたら良いなって」
風が吹いた。
同時に沖田の中に、遼の言葉がストンと入っていく。
「幸せ、か……」
自分はどうだろうか。
幼い頃別れた両親には、世界で一番大切な人だった姉には、何を伝えたいのだろう。
「じゃあ、帰りましょうか」
「もういいのか?」
「はい。山崎さんから、晩御飯にハンバーグをリクエストされてますから」
「何で山崎?」
「お片付けをお願いしてきたんです。あ、買い物もして帰らないと。沖田さん、付き合って下さいね」
随分ちゃっかりしている遼に、沖田は「仕方ねぇな」と笑う。
「但し、俺のハンバーグは山崎の2倍で」
「目玉焼きもつけますよ」
「じゃ、交渉成立ってことで」
桶を手に立ち上がった沖田は、遼の少し前を歩く。
後ろを着いてくる遼の気配を感じながら、沖田は未来の事に思いを馳せた。
姉には、どんな花を供えようか。
どんな花を喜んでくれるだろうか。
その時は、遼を誘ってみよう。
「まだ四十九日も済んでねぇってんのに」
「何の話ですか?」
「さあな」
随分機嫌の良さそうな沖田の様子に、遼は「教えて下さいよ」と言い縋る。
「ま、気が向いたらな」
「もうっ、意地悪なんですから」
「住職に挨拶して帰るんだろ、急がねぇと本当に日が暮れちまうぜ」
そう言って伸ばされた沖田の左手を、遼は驚きつつも握り締めた。
ーおわりー
以下オマケ